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カチーダ・ マーハの日記
ルチルの 気まぐれ日記

カチーダ・マーハの日記

トビラの向こう側
2011.02.11

 目の前に広がる道。どうも幾重にも分かれているみたいだ。どの道を選ぶか、どの道を選ばないか。進むべき道とは。進みたい道とは。そもそも細分化された選択肢に気付けただけでもかなり幸運なことであるのは間違いない、はずだ。

 ジブンが歩んできた道。背中に続く道も一直線では決して無い。岐路だらけ。両手じゃ足りない。袋小路も数え切れないだろう。ジブンが歩いた足跡。これからの足跡。明日へのミチシルベ。

 果たして目的地が分かっていても、道すじがはっきりと分かりえても、自分が今現在どこに居るのか、それが全くもって分からない。

 「この香り、前にも嗅いだことがある」

 ひと昔と言えるほど遠い過去では決して無い。ただ、懐かしい匂いがボクの記憶を過去に引きずり込む。

 香りを感ずるが早いか、ボクはうしろを振り返る。あの後姿に見覚えは全く無い、全く。何を思ったか、ジブンで自分が分からなくなった。

 「スイマセン」

 彼女が振り返る。全くもって見覚えがない。「人違いでした。ごめんなさい」

 「タケシ?もしかして」彼女には見覚えがあるみたいだ、ボクを。

 「誰だっけ?」出てはいけない言葉が気付いたときには出尽くしてしまっていた。

 「私の顔忘れちゃった、もしかして」言うが早いか彼女の白い歯が姿を見せ始めた。

 「あの頃の私じゃないんだ、そういえば」笑みと呼ぶには苦々しかった。

 「逆によく気づいたわね、私じゃないワタシに」話しが長くなりそうだ。

 ボクと別れて間もなく、彼女はジブンを変えることにしたという。手始めに容姿から。なぜ整形することになったのかを聞きたくなったが、どうも理由はボクではないみたいだ。それはそれで寂しくもあったりするのがボクであったりもするわけだが。

 「どうして私じゃないワタシを呼び止めたの?」ボクは正直に答えた。

 「そっか、そっか。いくら顔が変わっても、私の好きな香り、好みは変わんないものなのね」

 「それは私の生き方とかも例外じゃないよね」

 それはボクには分からない、彼女がジブンを変えた理由すらも想像できそうにない。

 「またなんで整形しちゃったんだよ、リコ」ダメだ、ダメだ。思うより早くに言葉になる。理性が走馬灯みたいに廻っている。あれ、走馬灯って何だっけ・・・。

 「リコなんて久しく呼ばれていないから緊張しちゃうな。何よりタケシのその声で呼ばれると」

 「外見だけなの、変わったのは。どうやってもダメだった。私は変われなかった。なーんちゃって。」記憶には程遠い、しっかりした二重の瞼が二度重なった。

 あの切れ長の目にほれたはずだ、俺は。でも二重も悪くないと思わずにはいられない。夜の蝶いま羽ばたくか。どうか俺の肩にとまってくれ。そしてボク自身をボクと共有してくれ。

 こういうコトバがどうして口をついてでないのか。言わなくていいことは漏電につぐ漏電なのに。

 まだリコを思い出すほど、振り返るほど記憶は確定しきってない。そもそも忘れられない存在だ。どれほど容姿が変わっても。しかもメチャクチャイイ方に。美人の最上級はどう表現したらいいんだ。ヒトはあまりに美しい物に出会うと言葉を失うんじゃないことに気付いた。ボクは嘆く。美の対極にいるボク自身を手はじめに、最期にはリコの存在を。
 ボクが大げさすぎるのか。ウン、間違いない、それだけは。

 「どうしたの、焦点合ってないみたいだけど」どうやら時間さえもボクを通り過ぎたみたいだ。

                                     つづく

Posted at 2011.02.11 in ひとりごとコメント(0)トラックバック(0)
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