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カチーダ・ マーハの日記
ルチルの 気まぐれ日記

カチーダ・マーハの日記

哀しみの名残り、楽園の終わり
2010.07.09

 「どうぞ」

 何か違う。俺は違和感を感じずにはいられなかった。なんだ、この部屋は。何も無い。テレビはおろか、モノがない。あるであろうはずのものが何一つない。冷蔵庫から彼女がビールを運んで来る時にも中にはビールしか目に入らなかった。

 「殺風景なお部屋ですね」

 「何も置かないようにしてるの」

 「なにもないって事はこれから何かで満たされるって事じゃない。それが夢や希望だとしたら最高でしょ」

 彼女は理解できそうで、一生理解できないであろう事を言った気がした。彼女が今言った事、それ自体が夢ではないだろうか。

 「寂しくはないの」

 「寂しいって何が寂しいの」名ばかりの笑顔で彼女が言った。

 「空虚さに満たされたこの空間だよ」

 「お酒に酔う前に虚しさに酔いしれちゃった、もしかして」

 「俺は酔いやすいんだ、お酒にも、女性にも、その虚しさとやらにも」

 改めてそう思った、。空にしたビールは数えるほどなのに、本能を咎める理性がうまく作用していないみたいだ。幸か不幸か。

 「よく聞き取れなかったんだけど」

 「二度言う事でもないし。来世紀まで待ってもらっていいかな」

 「待つ甲斐あるの?」酔いやすいのは俺だけではないようだ。

 俺には分らないとうそぶいた。

 「そう、そういえば名前なんていうの」

 「君こそなんていうんだよ」名前すら分らないままここにいることに驚きつつ言った。

 「名前なんてたいした意味無いけど。みんなはリズって呼ぶわ」

 そうか、何ひとつ知らなかったも同然だったんだ、俺は。

 「特に男と女には」彼女が続けて発した言葉だけは聞き逃さなかった。

 ひとつだけ確かな事があるとすれば、ここには男と女しかいないってことだ。


                                         つづく

Posted at 2010.07.09 in ひとりごとコメント(0)トラックバック(0)
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