「この国にビール以外飲めるものがあるって?」
「ない、ない。分かったから飲みにいこうよ、早く」
「もしかして理屈っぽい人だよね、あなた。そういうのイケズって言うんでしょ」
「俺は知らないな~。完璧主義者とでも言ってほしいけど。まあ、俺を満たしてくれるモノがこの国にあるか、確かめに行くとするか」
完璧って、ただ自分に素直じゃない事に関してはそうでしょう。でもちょっと尋常じゃないかも・・・。一体この人何なんだろ。なにかしらイエス、ノーに長々と説明をつけて返してくれるなんて。顔もたいして好みでもないのに。どちらかといえば、かなり受け付けないほうかも。ただ・・・、あの人を思わせる、あの人を感じさせる気がしないでもない。
だからか・・・。
あのヒトも飲むのは決まってビールだった。こんなに甘ったるい日常を中和してくれる唯一がこれだと言って。しかも何かに駆り立てるかのように浴びるほどの量を。
あのヒトを思い出すなんて・・・、薄っぺらい思い出の一部にしていたはずなのに。思い出になっていたはずなのに。
「こんな時間からビールを出す店知ってんの」
「ここをどこだと思ってんのよ。夢の国なんだから。任せといて」
「夢をはき違えてる気がするけど・・・、まぁその夢ってやつを感じさせてくれ」
二人は街へ出た。
均一化に加速がかかる街並み。ここでは、誰一人外でタバコを吸うことが叶わない。
薄く薄く、俺たちの何かがそがれているようだ。去勢の真っただ中に俺はいるんじゃないか、間違いなく。
つづく