分らない。なぜおれはここにいるのか。俺はどうしたいのか。
「プレゼントはなにがいい?」
「なにもいらない、ただずっとそばにいてほしい」
何度尋ねようとその答えしか返ってこなかった。
「そんな重たいもので着飾りたいとは思わない。そんなもののために悩むぐらいなら私の手を握っていてほしい」
俺は彼女のいうことに反発した。その重たいもののために、俺にできる限りのことをなそうと。時間という時間を使って働いた。そして俺は手に入れた、彼女へのプレゼントを。
つくづくバカなやつだ、俺は。この日を前に彼女がいなくなるなんて。誰のものだ、これは。買う時にはあんなに輝いて見えたのに。ちっとも眩しくない、ただの石ころになっちまった。代償は重すぎたみたいだ。
空になるグラスが繰り返される。まわりの賑わいが余計にそれを加速させる。
「隣で飲んでもいいかな」
サーカスにでも出てきそうな女がそう言うなり俺のそばに座った。
「今日は稼ぎ時なんじゃないの、他にもカモがいんだろ」
「そんな手垢のついた噂信じちゃって。いつ稼ぐかは私が決めるわ」
面白い。俺は重たい石を彼女に見せた。こんな猫さえ跨ぐようなものいらないと彼女は言う。
「ちょっと付き合ってよ、こんなもの持ってるぐらいだからどうせ暇でしょ」
会って一時間も経たない女の車に俺はいる。景色は凝縮されて過ぎ去っていく。
「こんな季節に屋根開けるなんて、あんたぐらいだろ」
「私は感じていたいの、スピードを。急がなきゃ意味がないし」
俺はわかったような顔を作りながらも、そのスピードに流れるのは彼女の言葉だった。彼女へのプレゼントは彼女には渡らなかった。だが彼女からはプレゼントをもらったのか、俺は。景色が妙に間延びしてみえる。
女はギアを落として右足に力を入れた。音がスピードをさらに鋭くさせた。
「そんな形のものなんて今じゃ売ってないわ、あなたはどうしたいの?」
「あなたは今を生きてない」
降りはじめた雨に気づいたのは信号に捕まった時だった。コートの色が濃くなっていることに初めて気がついた。女は前を見据えたままだ。
昔の人はいった 『TOO FAST TO LIVE ,TOO YOUNG TO DIE』
「どこに行きたい?」女は俺に聞いた時には既にアクセルを踏んでいた。このスピードが俺をどこかへ運んでくれるのか。俺は目的地を考えることを放棄した。このスピードのなかにいられるのなら。