会社での仮面、休日の仮面、ましてや彼女と会うときの仮面。
俺はいったいいくつのそれを使っているのか。素顔になるときが俺にはあるのか。
素顔ではいられないのか?それほど不器用にすぎるのか。
いや、不器用だからこそ色んなジブンを使い分けないといけないんだ。
人はいくつの仮面をつかいわけているのだろうか。
俺にも数えたくないほどのものがあるんだから、周りの人はなおさらだろう。
そして、彼女もその例に漏れない。
あの時ふれた唇も、これから交わすキスもすべて直接対峙したものではない。
二重、三重の薄っぺらい壁がそこにある、厳然と。
彼女には決して届かないのか?そして彼女も同様に俺には・・・。
生身のままでは危険すぎる。だから仮面の数をふやしてきたのか、俺は。
武器というにはお粗末だが、自分を守るためだ。
いや、ジブンが自分でいるためだと言い換えよう。
仮面を携えたジブンが本来の自分なんだ。
仮面を一枚一枚剥いでゆくことが自分に近づくことではない。仮面の数を蓄積し、
それを淀みなく、有機的につなげることで自分になるんだ、と思いたかった。
彼女が俺の元を離れる際にこう言った。「なんだかいつも重そうにしてた。」
重いのは体だけではなかったか。
手に入れた仮面はキャリーバッグにも入りきりゃしない。
たいそうな荷物になってしまったようだ。繕うのはもうやめだ。
無防備の、飾らない自分を生み出していこう。いや、そうなってやる。
ニュータイプ誕生だ。
昔の人は言った。
「そんなに荷物を抱えてどうする? 人間、星になるときは身ひとつだ」
ホールでガンダムを目の当たりにして、赤い彗星を思い出して、そんなことを考えた。
あの仮面の重みは俺には想像できない。権威や権力の具現化だ。
仮面を脱ぐことはどういうことか、仮面を手に入れるとはどういう意味をもつのか。
シンプルであることは極めて難しい。