拙い記憶を辿ろうとするが、どうも記憶自体ところどころ繋がっていない状況なので、つまりは欠けている部分、意思を持って消した部分が少なからずある。
ボクは遠い目をしてたに違いない。リコの声がボクを現実、イマに戻す。
「変わりたかったのに、変われなかった。だけど正直変わりたく無かったのかも」
変ったのか、変らなかったのか一体どっちだよ。でも今のリコを目の前にしたらどうでもいいか。
「今どうしてんの?」ついに聞いてしまった。よくやった、オレ。
卒業してから、まぁその前にボクらは終わっていたのだが、勤めた銀行で無難に過ごしていたという。そう無難に。彼女が最も得意とするヤツだ。何やってもそつなくやってのけてしまう。そこがたまらなく素敵に思えて仕方なかった、あの頃も。そしてそんなジブンに飽きてしまい銀行もやめたみたいだった。彼女を知る俺にとってはなんら不思議ではない。リコはそういう人なんだ、今でも。
「ところでタケシはどうしてんの?あいかわらず?」
そう、たまに見せるこういう感の鋭さもまぶしかったなぁ。的確すぎる。ボクは失った言葉を必死に探そうとするが・・・。ジブンでも気付いてたことだけど瞬発力にボクは乏しい。場当たりなウソも思いつかない、あ~、情けない。それも今に始まったことじゃないか。
そんなボクを無視して彼女が口をついた。ラッキー。ホッとした顔は悟られないように努力したつもりだが、果たして。
「ほんの思いつきなんだ。よくあるじゃない、理想の顔って。アレアレ。理想のパーツを寄せ集めた結果がこれなの。」
「キレイなパーツが揃っても、その集合体は決してキレイにはならないのよね。薄々は分かってたのに、整形してみて確信に変わるなんて、私って」
キレイかどうか決めるのは君じゃない。君の周辺、そうボクみたいなやつだ。そのボクが思うに・・・リコはキレイだ、間違いない。
頑なな君にボクの声が届けばいいのだが。まぁ届いたところで君には何の手ごたえもないだろうけど。
「じゃあリコのいうキレイってどんな感じ?」遠まわしにまずは聞くことにした。邪心を噛み殺して。
「ジブンでもよく分からないんだけど・・・」笑みを浮かべて口をひらくリコの次のコトバにボクは驚きを隠せなかった。
「ジブンの付き合う相手が望むキレイが私の理想なのかな。ツマンナイ言葉を鵜呑みにして整形までしちゃって。んでなんか変身したとたんに急に彼へのキモチが冷めちゃった。」張りのある声がボクの鼓膜を直撃する。
変身したから別れようと思ったのか、別れを決意したから変身したのか、多分両方だな。うんうん。だけどひとつだけ確かなのはリコは今フリーってことだ。
ミナギル欲望を抑えるのに苦労しそうだ。イヤ今がその時かも。今解き放たなくてどうする?でも昔付き合ってたから今でもオレに好意があると思うジブンって我ながらオメデタイ、確実に。
「へ~、じゃあ今フリーなんだ、そっかそっか」出来うる限りの平静をボクは装ったつもりだった。キレイすぎてオトコが逆に寄り付かないんだよという体裁を整えるようなコトバは浮かんでこなかった、やっぱり。でもそれって昔のリコを否定することになっちゃうよな。よしよし。ボクはどうも間に合いすぎる。
「タケシ、まさかのまさか?」
「どのまさかだよ」ブ厚い唇から目が離せない。
つづく