「君といるとビール進んじゃうね」
「私とは関係ないと思うけど、ビールが進むのは」
「いやいや楽しくて仕方ないよ。君といると」出切る限りの笑顔を作って言った。
「私のおかげというより、わたしのせいっていうのは悪くないかも」
逆もまた真実であって欲しいが、それを聞くのはやめにした。そばにいる彼女への気持ちが飛躍する。だがそれは今ではないはずだ。もう少しこのままで。ビールが時間を濃密にする。
「まだ飲み足りない?」唐突に彼女が言った。この言葉の意味は。
「飲まずにはいられないな、君といると」空の缶を振ってみせる。
「飲み足りないというか話し足りないというかどっちだろ」
「でも話をするには酔いすぎていないかしら、あなたも」そう言った彼女の目は恐ろしく艶を帯びていたように映った、俺には。
「話をするには明るすぎない?」目だけじゃない、彼女自体が艶の塊だ。
暗闇が突如訪れる。
闇は世の中の物を全て美しく見せると聞いた事がある。あれはどうやら真実だったらしい。彼女を形容する言葉を俺は持ち合わせていない。
そして触れ合う感覚はその視覚すら凌駕してしまうことも。
つづく